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3 古井戸の底(1) [DQ4-1]

3 古井戸の底(1)


「こっちへおいでよ・・・・・・」
 井戸に近づくと、何か声が、聞こえたような気がした。まるで、子供のような声だった。が、気のせいと感じるほどの小さな声だったので、ライアンは特に気にしなかった。きっと、風に乗って、イムルから、子供等の声が聞こえたと思ったのだ。
 ライアンは、井戸の中を覗き込んだ。口から底までは、彼の身長の4~5倍はありそうだ。壁は泥に塗れ、あちこち欠け落ちていたが、おかげで足がかりにもなってくれた。ライアンは慎重に降りた。底が近づくにつれ、井戸の水が干上がっていることと、所々、かろうじて一部の床に、地下水があることがわかった。
 ライアンは古井戸の中の壁から手を離し、古井戸の底に、勢いをつけて着地した。
 古井戸の底は酷く暗かったが、かなりの高さがあり、立って歩けるほどの高さがあった。いざ出発の前に、ライアンは、古井戸の口を見上げてみた。空は丸く小さく、青く、遠かった。見詰ていると、天地がさかさまになったような奇妙な感じがした。
 古井戸の底は、特に呼吸が苦しいことはなかった。どうやら空気がない訳ではないようだ。つまり、息が出きるということだ。
 ライアンは小さく微笑み、勇気を奮い起こして、歩き出した。
 子供達が先に歩き無事に戻ってきた場所であることを、頭では知っているはずだったが、いざこうして踏込んでみると、どうにも薄気味悪かった。空気は湿ってなまあたたかく、地面はぬかるんで、度々足が滑った。こんなところをわざわざ好んで『探検』するなんて、正気の沙汰とも思えない。臆病な性格なら、さぞかし、暗い、狭い、怖い、と甲高い声で泣き騒ぐだろう・・・・・・。
 大勢の仲間に囲まれている子供達が、酷く羨ましかった。彼らが、ああまで幼くさえなかったらなら、自分とは、親友にだってなれたかもしれない、とライアンは考えた。
 ひとりきり暗がりにあることが、頑なな戦士の心をも弱めたが、ライアンの瞳は薄らと曇った。ライアンは鼻から息を吸込んだ。瞬きをして、眼をはっきりさせた。
 その時。遠く、潺のような声がした。その音に混じって、かすかな囁きが聞こえた気がした。古井戸の外で聞こえたのと同じものが。
「こっちへおいでよ・・・・・・」
 ライアンは眉をひそめた。こころの隅で、恐怖がじわじわと膨れ上がってゆく。
 錯覚だ。わたしとしたことが。
 ライアンは頭を振ってみた。
 声はしなくなった。だが、どうやら、どこかを水が流れているのは確からしい。
 それはそうだろう。井戸を掘ったということは、床にもあるように地下水があるということだ。汲み上げられ、弱まって、あるいは多少流れを変えたかもしれないが、近くに水源があっても、なんの不思議はない。
 納得が行くと、恐怖は、急に大人しく収まってゆくのがわかった。
 そうだ。恐れるな。子供達だって、歩いた道じゃないか。
 そこは最初の分岐点だった。ライアンは右を選んだ。以前、イムルへの洞窟を歩いた時のように。すると、また声がしたのだ。今度こそ、無視出来ないほどにはっきりと。
「そっちへ行くと帰っちゃうよ・・・・・・」
 脈打つ様に恐怖が高まり、「誰だ!出てこい!」ライアンは思わず叫んだ。
 何ものも答えなかった。
 ライアンは鉄のやりに手をかけた。混乱しかけたが、正気を失うまいとして、必死に頭を働かせた。
 ひょっとして、大昔のこの古井戸を使っていたものとやらは魔法の技に優れていて、声をもって、道順を示す様な、複雑な仕掛けを施していたか?
 だが、この現象について、アレクスが、何一つ教えてくれなかったのが奇妙な気がした。今だけ起こっていることか。わたしの、無意識が、恐怖で、ありもしない声を聞かせている?
 いや。声はした。決して、恐怖のせいではない。仮に実際に、声が、いつでも正しい道筋を教えてくれるのだとしよう。子供たちもそれを聞いたはずだ。だが、彼らは、大勢だった。てっきり仲間の誰かが呼んでいるのだと思い、疑うことがなかった。彼らは迷わず声に従っただろう。そして彼らは無事だった。
 この説明なら合理的なような気がした。
 だとすれば、声の通りに進むことこそ、安全の道であるはずだ。
 ライアンは、「よし。お前が何であろうと、わたしは、信じるからな!いいな!」力強く言った。姿を見せぬ相手を牽制しようとするように。自分にもまた言聞かせるように。
「こっちへおいでよ・・・・・・」
 2つ目の分岐点に行くと声は答えた。皮肉なほど、素気なく。無頓着に。
(続く)

※次回は3日更新です。
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